ちいさな日々の物語

パンやお菓子のおいしいお話、日々の出来ごとなどゆるゆる書いていきます

奇跡(ミラクル) ~心に残る詩歌~

庭の小さな白梅のつぼみが 

ゆっくりと静かにふくらむと、

日の光が春の影をやどしはじめる。

冬のあいだじゅうずっと、

緑濃い葉のあいだに鮮やかに 

ぼつぼつと咲きついできたのは

真っ白なカンツバキだったが、

不意に、終日、春一番が、

カンツバキの花弁をぜんぶ、

きれいに吹き散らしていった。

翌朝には、こんどは、

ボケの赤い花々が点々と

細い枝々の先の先まで 

撒いたようにひろがっていった。

朝起きて、空を見上げて、

空が天の湖水に思えるような

薄青く晴れた朝がきていたら、

もうすぐ春彼岸だ。

心に親しい死者たちが 

足音も立てずに帰ってくる。

ハクモクレンの大きな花びらが、

頭上の、途方もない青空にむかって、

握り拳をパッとほどいたように 

いっせいに咲いている。

ただにこにこ在るだけで、

じぶんのすべてを、損なうことなく、

誇ることなく、みずから 

みごとに生きられるということの、

なんという、花の木たちの奇跡(ミラクル)。

きみはまず風景を慈しめよ。

すべてはこれからだ。

 

 奇跡ーミラクルー  長田 弘

          
           
 ☆ ☆ ☆

4月2日付読売新聞朝刊・文化欄
出発する君へ[上]より掲載させていただきました。
大変失礼いたしました。

長田先生は、同新聞掲載の『こどもの詩』の
選者でもいらっしゃいます。
わたしは、こどもの詩が大好きで、いつも欠かさず読んでいます。
また、長田先生の、こどもを見るやさしい眼差し、あたたかさ、
心なごむ選評…実はもう一つの楽しみでもあります。